法律基礎知識

その他

住宅ローンを支払っている場合の婚姻費用

その他/法律基礎知識/離婚について

今日は、夫が持ち家を出て別居しており、自宅に妻が住み続けているというケースを考えます。

この場合、夫が住宅ローンを支払いを止めますと自分の信用履歴にキズが付きますので、夫はローンだけは支払い続けることが多いです。(金銭的な余裕がない場合は別として。)

この状態で、妻から夫に婚姻費用(生活費)の請求がなされた場合、住宅ローンを支払っているという事実はどのように反映されるのでしょうか。

 

例えば、双方の収入から弾き出した婚姻費用として月額10万円が相当と考えられる場合に10万円のローンを払っていたら、

●婚姻費用としてはゼロと考えるのか

●ローンは生活費とは無関係なので10万円を支払うべきなのか

どちらになるのでしょうか。

 

住宅ローンというのは、家賃とは違って純粋に住宅費となるものではなく、その中身は借金の返済です。

借金の返済が終わったら、住宅が名実ともに自分のものになりますので、ローンの支払いは財産形成のためのものであり、生活費にはならない、という考え方もできます。

しかし一方で、夫が住宅ローンを払っているからこそ妻が自宅に住むことができ、住居費の支払いをしなくて済んでいることも事実です。

 

これをどのように処理するかということについてはいろいろな考え方が成り立ちますが、

一般的には、「ローンの一部を婚姻費用から差し引く」ことが多いようです。

差し引かれる金額については幅がありますが、統計上、一般的に負担している住居費の額を差し引くという方法が理論的であると思われ、そのような考え方に立つ裁判例も複数あります。

妻の収入が200万円を切る程度ですと、統計上の住居費の額はおよそ3万円となります。

双方の収入から弾き出した婚姻費用が10万円であれば、そこから3万円を差し引き、7万円を支払ってもらうということになります。

なお、私は、過去に担当した調停で、裁判所から「ローンを折半する」、つまり、ローンの半額を差し引くという案を提示されたこともあり、この辺りはまだ扱いが固まっていない部分があります。

 

当事務所では、婚姻費用請求に関するご相談をお受けしております。

お気軽にお問い合わせください。

 

弁護士 深堀 知子

 

 

証拠の重要性について

その他/法律基礎知識

民事事件では、双方の言い分が180度違うことが珍しくありません。

例えば、事故の瞬間、信号が何色だったかで争われるケースは、皆さんが想像するより遥かに多いです。

故意に噓を言っている場合もありますが、思い込みや記憶違いもあります。

 

では、そのような場合、どうやってどちらが正しいのか見分けるのでしょうか。

 

【1】物的な証拠

一番価値があるのは、誰が見ても動かせない、物的・客観的な証拠です。

上の例であれば、ドライブレコーダーの画像があれば、ほぼ疑いの余地はありません。

契約上のトラブルのケースでは、契約書などの書面がモノを言います。

 

【2】人的な証拠

証拠として「証言」が用いられることもあります。

上の例で、物的な証拠がなく、たまたま通りかかった第三者が信号の色を証言してくれたとすれば、その証言に基づいて事実が認められるでしょう。

実際のところ、人間の認識や記憶というのは当てにならないところがあり、物的な証拠ほど正確ではありません。

しかし、裁判では、「裁判に出てきた証拠だけを元に、できる範囲での事実認定をする」というのが基本であり、第三者が赤と証言すれば赤という認定になる可能性が非常に高いです。

なぜなら、裁判の結果がどちらに転んでも、第三者にとっては得にも損にもなりませんので、ウソをつく理由がない、と考えられるからです。

 

では、第三者が2人いて、双方の証言が食い違っていたらどうなるでしょうか?

 

その場合は、「どちらの証言がより信用できるか?」という話になります。

信用性の判断は、供述の態度も含めた総合的なものになりますが、主なポイントを挙げておきましょう。

 

・質問に対する答えが一貫しているか

→ほんとうに記憶しているなら、何度聞かれても同じ答えになるはずなので、同じ内容の質問をされたときに、違う答えを言う証人は信用性が低いと判断される

 

・答えが具体的か

→実際には見ていないのに見たかのように証言する人は、細部を聞かれると言葉に詰まるものなので、あいまいに濁す証人は信用性が低いと判断される

 

・筋の通った答えになっているか

→ふつうはそんなことをしないでしょう、というような不合理な内容を証言して、その理由を説明できない証人は信用性が低いと判断される

 

・他の証拠と証言の内容が合っているか

→例えば、事故当日雨が降っていたことが明らかなのに晴れだったと証言する証人は、他の部分についての証言も怪しい(信用性が低い)と判断される

 

・その証人の立ち位置

→原告、被告のどちらかと特別な関係にある場合や、その証言が証人本人の利益に関係する内容である場合には、もちろん、自分の側に有利になるように証言する可能性が高いので、その点を割り引いて評価しなければならない。

 

法的な問題を解決するにあたっては、証拠の有無が結果に直結します。

ご自分では関係がないと思っていても、実は重要な証拠になることもありますので、ご相談の際は、是非、すべての資料をお持ちいただきますようお願いいたします。

 

堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

フリマアプリの取引での商品紛失

その他/法律基礎知識

最近、スマホのフリマアプリが爆発的に浸透して誰でも簡単に中古品の売買ができるようになり、ますますネットを介して商品売買を行なう人が増えました。

ネット上の取引は、相手と会って商品とお金を交換するのではなく、商品を郵便などで送りますので、「送ったのに届かない!」というリスクが付きまといます。

送料を節約するために普通郵便を利用するケースも多く、その場合には追跡が不可能です。

では、商品が行方不明になった場合、どのように解決したらよいのでしょうか。

 

「フリマアプリで商品を販売し、普通郵便で発送したのに、いつまで経っても届かないと言われた」

「郵便局に調査を依頼したが、分からないと言われた」

というケースを考えてみます。

 

民法上、これは「危険負担」の問題となります。

「危険負担」というのは、どちらの責任ともいえない理由によって目的物がなくなってしまったり、壊れてしまった場合に、そのリスクを誰が負担するのか、というお話です。

民法上は、「特定物」の場合には、リスクを負うのは「債権者(この場合は購入した人)」である、と規定されています(民法534条)。

「特定物」というのは読んで字のごとく、この商品!と特定されたモノのことです。

フリマアプリで取引するのは中古品がほとんどで、ここにあるこの商品!と特定されていますので、原則として「特定物」になると考えられます。

 

・・・ちょっと法律用語が入り混じって分かりにくいですね。

翻訳しますと、売買契約が成立した後に、不可抗力で商品がなくなってしまった場合には、損をするのは買った側ですよ、ということです。

火事が延焼して商品が燃えてしまった場合、運送途中で運送業者の過失により商品を紛失した場合などには、購入者は、商品は受け取れなくても代金を支払わなければなりません。

 

では、発送したのに届かない、というトラブルが発生した時には、発送はしたんだから私の責任じゃない、代金を払って!と言えばいいのでしょうか?

実際には、もうひとつ大きなハードルがあります。

「発送した」ことを証明できるかどうか?という問題です。

そもそも、発送すらしていないのであれば、単に、売った人が債務を履行していないだけですので、当然ながら代金を請求することはできません。

「発送した」のか、していないのか、それを証明できるのか、が大きな分かれ道となります。

 

きちんと記録が残る方法で発送していればこの問題はクリアできますし、それ以前に、郵便局や運送業者に損害を請求する形で解決することができるでしょう。

しかし、普通郵便など、記録が残らない方法で送付していると、発送したことを証明するのは至難の業。

結果として、代金の請求もできない、ということになることが多いと思われます。

購入者が受け取っているのに届かないと嘘を言うケースも想定されますが、送ったかどうかが分からない以上、売った人に不利に判断される可能性が高いです。

したがって、普通郵便などを利用する場合には、代金を請求できなくなるリスクがあると覚悟して取引をした方がよさそうです。

 

郵便の正確性に関しては、日本は世界一といっていいほどだと思いますが、稀に事故も発生しますし、上記のとおり噓を付く購入者がいることも否定できません。

フリマアプリは高校生など未成年者が利用することも多いようで、リスクについては思いが及ばず、トラブルになるケースが多いように見受けられます。

利用者は、紛失のリスクを意識し、できるだけ記録の残る方法で発送するようにすべきですが、それと共に、アプリの運営業者の側も、利用ガイドなどに「記録のない発送方法の場合は代金を請求できなくなることがある」と明記し、リスクを明確にする責務があるのではないか、と考えます。

 

 

 堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

 

改正消費者契約法が施行されました

その他/法律基礎知識

このたび、改正された消費者契約法が施行され、契約を取り消せる範囲が広がるなど、さらに強力な消費者保護を目指した内容となりました。

その背景としては、高齢者が不要なものを次々と買わされたり、ウソの事情を信じ込んで契約したりするような被害が発生しているという状況があります。

今回は、大量に商品を購入した場合の取消しと、虚偽の事由を告げられて購入した場合の取消しについて説明します。

 

● 大量の商品購入の取消し

その消費者にとって「通常の分量を著しく超える(=過量)」ものが取消しの対象となります。

 

過量かどうかは、単に、購入した数だけではなく、購入した物の内容や価格などの取引条件も加味して考えます。

同じ量を買ったとしても、保存食品であれば過量に当たらないものが、生鮮食品の場合には過量に当たることもあります。(期限までに消費しないと価値がなくなるため。)

 

また、それぞれの消費者を基準として考えますので、「過量」に当たるかどうかは、その人のふだんの生活状況によって異なった判断がなされます。

例えば、1人暮らしでふだん外出しない人が、高価な着物を10着も買ったとすれば、それは「通常の分量を著しく超える」ということになります。

しかし、同じような買い物をしたとしても、例えば、その人が芸能人で頻繁に着物を着て外出している人であれば取消しの対象にはなりません。

 

簡単に言いますと、常識的に考えて、「この人が、この物をこんなに買って使い切れるはずがない」と判断される場合には「過量」に当たる可能性が高いです。

ただし、取消しの対象となるのは、事業者から消費者に勧誘をした場合に限られます。自分で勝手に大量買いをした場合には取り消せませんのでご注意ください。

高齢者の方などで、判断能力が衰えて不要なものを大量に買ってしまうおそれがある場合には、成年後見制度のご利用をご検討ください。

 

●虚偽の事由を告げられて購入させられた場合の取消し

従来の消費者契約法では、買ったもの自体についてウソを言われた場合には取消しができましたが、買ったものに関係しないウソに関しては、取消しの対象外となっていました。

例を挙げますと、「騒音が全く出ない掃除機です」と言われて購入したものを実際に使ってみたらかなりうるさかった、という場合には取消しができましたが、「この掃除機を使っていると発火の危険があって危ないから買い換えた方がいい」と言われたが、実際には危険性がなかった場合には、取消しはできませんでした。

 

新しい消費者契約法では、消費者が「発火の危険がある」などと騙されて要らない商品を購入した場合でも、取消しが可能となり、取り消せる範囲が広がりました。

 

消費者契約法により契約を取り消した場合には、

消費者は、購入金額の全額の返還を受けることができます。

仮に、一部を消費してしまった場合でもそれは変わらず、手元に残っているものを業者に返せばよいことになっています。

手元に残っていない場合(破棄した場合など)は、返還する必要はありませんが、転売などをした場合には手元に残った利益分を業者に返還しなければなりません。

 

堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

判決と和解の違いについて

その他/法律基礎知識

訴訟が進んで、概ね主張と証拠が揃った段階になりますと、必ずと言っていいほど和解の場が設けられます。

当事者の方にとっては、和解をするか、判決をもらうかの選択を迫られることになります。

 

和解案を受けた方が良いのかどうか悩む方も多いと思いますが、一番大きな判断のポイントは、「判決になったらどういう結果になるだろうか?」ということです。

訴訟に提出された主張、それを裏付ける証拠を検討して、勝つ見込みがあるのかどうか。

和解をしなくても勝てる可能性が高いのであれば、無理に和解をしなくてもいい、という方向に傾きます。負けそうな気配が濃厚であれば、少額の和解案であっても受け入れた方がいいでしょう。

最近では、裁判官がある程度踏み込んだ心証開示を行なうことが多く、判決の見通しを付けやすいケースが増えていると感じます。

裁判官の心証開示がないケースというのは、かなり微妙で勝敗の見通しが付きにくいことが多いです。そのような場合は、最後まで結果が分かりませんので、敗訴のリスクを避けるために和解を選択するということもあり得ます。

 

しかし、実際の訴訟には、これとは全く別の視点があります。

勝訴したとしても、それを回収できるだろうか?」ということです。

相手方に資力があることが分かっている場合はいいのですが、どんな財産を持っているか不明な場合、あるいは資力がない場合は、たとえ全面勝訴したとしても実際に回収することができないことが多いです。

誤解されることが多いのですが、裁判所は判決を出すだけで、相手方から取り立ててお金を持ってきてくれるわけではありません。

回収するためには、別途、自分で差押えができる財産を探して来て、これを押さえて下さい、という手続をしなければなりません。

したがって、勝訴してもその内容を実現できないという事例が頻発するわけです。

なお、強制執行が可能になるという点においては、判決と和解に違いはありません。

 

和解の場合は、相手方が自分で納得して支払いを約束するので、支払が行われる見込みが高いと言われています。裁判所という公的な場で行なう約束ですので、心理的な強制力も大きいのでしょう。

実際、私が関与した事案でも、和解後に約束を反故にされたというケースはほとんどありません。

長期にわたる支払いの場合は、途中で支払いが止まってしまう例が散見されますが、きちんと支払いを終える例の方が多いです。

 

さらに、もう一つ、和解によって早期に解決ができることもメリットの一つです。

「和解」は終局的な解決であり、それ以上長引くことはありませんが、判決に対しては「控訴」をすることができます。

控訴されると、さらに控訴審の対応に時間と費用を掛けなければならず、負担が大きくなります。

なお、通常、弁護士費用は審級ごとに発生しますので、引き続いて控訴審を依頼する場合には別途着手金をお支払いいただく必要があります。

 

和解の場合は、判決では決めることのできない約束ごとを含める余地がある、という利点もあります。

和解をすることによって、感情的な対立がいくぶんでも和らげられたり、ご自身の中で気持ちの整理が付いたりといった精神的な役割も否定できません。

しかし、和解は強制されるものではありませんし、無理に和解をして逆に納得できない思いを引きずってしまうこともあります。

当事務所では、正しく状況を理解していただき、納得のいくご判断をしていただけるよう、依頼者の皆様をサポートしていきたいと思っております。

 

堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

 

夫が住宅ローンを払っている場合の婚姻費用

その他/離婚について

世間では、夫名義で住宅を購入し、住宅ローンも夫の名義にすることが多いですが、別居の時には住宅ローンが重い課題として残ります。

 

子どもの通学などの関係で、妻と子どもが自宅に残り、夫が出ていくという形で別居することも多いですが、その場合、夫が妻に対して支払う婚姻費用はどのように計算すればいいでしょうか。

 

住宅ローンの支払いは住宅取得のためであり、ローンを完済した暁には自宅が夫のものになりますので、ローンの全額を婚姻費用から差し引くのは不公平です。

しかし、夫は住宅を使用できない状態であるのに対し、妻は住居費の負担を免れているのは明らかで、これを全く考慮しないとなれば、夫はかなりの出費を強いられることとなります。

 

具体的に婚姻費用から差し引かれる金額は、双方の収入、妻が自宅居住を希望する理由、住宅ローンの返済額などのいろいろな事情を考慮した上で、公平な金額になるよう、ケースバイケースで決定されますが、

過去のケースでは、住宅ローンの半額を婚姻費用から差し引くという形で解決したことがありました。

 

以上は持家で住宅ローンを支払っている場合の考え方ですが、

賃貸住宅で家賃を支払っている場合には、その支払いにより夫が資産を形成するという面はありません。

したがって、夫が家賃を支払っていて、妻のみが自宅に居住している場合には、家賃の額全部が婚姻費用から差し引かれるのが原則です。

 

当事務所では、婚姻費用や養育費に関する御相談をお受けしております。

お気軽にお問い合わせください。

 

年金分割のタイムリミット

その他/法律基礎知識

離婚の際に、年金分割の手続をする方が非常に多くいらっしゃいますが、
年金分割には手続のタイムリミットがあり、これを過ぎると受け付けてもらえなくなります。

特に注意していただきたいのは、離婚を先行させて、後から年金分割の手続をする場合です。

年金分割の手続は、離婚成立後2年以内に行うことが決められています。
2年を過ぎると、年金分割をしてもらうことができなくなります。
2年という期間は長いようでいて、あっという間です。
離婚して時間が経つと、相手方と連絡を取ること自体が難しくなったりしますので、離婚から日を置かずにすぐに手続することをお勧めします。
相手方、または相手方の代理人(誰でも代理人になれます)が一緒に年金事務所に行けば、手続は簡単にできます。

問題は、相手方が年金分割の手続に協力してくれない場合です。
つまり、離婚は成立したけれど、相手方が年金分割を拒否して手続ができない場合、調停または審判を申立てることになります。

調停または審判には時間がかかりますので、結論が出る前に2年を経過してしまうことがあります。
その場合の救済策として、法律では、離婚から2年以内に調停または審判の申立てをしていれば、調停成立または審判確定が2年経過後であっても、年金分割の手続ができると定めています。
ただし、その場合の期限は、調停成立または審判確定の翌日から1か月以内なのです。

この1か月という期間は非常に短く、うっかりと経過してしまいがちです。
実際にも、せっかく調停や審判をしたのに、1か月以内に手続をせずに年金分割ができなかったという事例があるそうですので、十分気を付ける必要があります。

いずれにしても、年金分割を希望する方は、期限がギリギリにならないよう、離婚後すぐに行動を起こしたほうが賢明です。

長年別居していると遺族年金をもらえなくなる

その他/法律基礎知識

長年、籍を抜かずに夫と別居していて、夫が死亡した場合、妻の立場はどうなるでしょうか。

長期間別居していても、法律上婚姻関係にある限り、相続権はあります

したがって、夫名義の財産を相続分に応じて取得することができます。

 

では、遺族厚生年金についてはどうでしょうか。

「妻である限り、別居していても遺族厚生年金が受け取れるから、離婚はしません」 と言われる方がいらっしゃいますが、実は大きな誤解があります。

戸籍上の妻であっても、「生計維持関係」がないと遺族厚生年金の受給者にはならないのです。

「生計維持関係」を認めてもらうには、

①「生計同一要件」と②「収入要件」を満たす必要があります。

②の「収入要件」とは、一定以上の収入がある方には遺族厚生年金が出ない、というものですが、 問題となることが多いのは①の「生計同一要件」です。

①の「生計同一要件」とは、簡単に言うと、

●住民票上または実際に同居している場合 あるいは

●同居していないまでも、経済的・人的なつながりがある場合

でないと、遺族厚生年金の支給対象にはならない、ということです。

経済的・人的なつながり、というのは、下記の事情がある場合に認められます。

●別居の理由が単身赴任、就学、入院等のやむを得ない事情によるもので、その事情がなくなれば同居を再開すると認められること

●生活費・療養費などの経済的援助が行なわれていること

●定期的に音信・訪問が行われていること

したがって、夫婦仲がうまくいかなくなって別居を開始した方が、 住民票も移し、一切連絡も取っていないし、生活費も払ってもらっていない… となると、遺族厚生年金は受け取れません。

このような場合、妻の老後の生活を考えれば、夫が元気なうちに、きちんと離婚の手続きを取り、年金分割を受けるべきだということになります。

年金分割の手続は、相手方が協力してくれれば、年金事務所で比較的簡単にできます。

協力してくれない場合には、家庭裁判所に調停の申立てを行う必要があります。

当事務所では、女性弁護士が年金分割に関するご相談をお受けしております。

相手方が手続に応じてくれないと困っている方の相談を良くお聞きしますが、相手方の協力を得なくても、離婚し年金分割を得る方法がありますので、一度ご相談ください。

別居中の生活費は遡って請求できる?

その他/法律基礎知識/離婚について

今回は、何年も別居したままで離婚が成立しない場合、永遠に婚姻費用を請求し続けることができるのか?という問題について考えてみたいと思います。

別居が長いと婚姻費用が減ることがある

一般に、戸籍上の夫婦である限り、別居していたとしても、籍を抜くまでは婚姻費用の請求は可能とされています。

ただし、別居期間が長くなって、事実上婚姻関係が破綻している場合には、請求できる金額が少なくなるという考え方が主流で、家庭裁判所の審判でもそのような考え方に基づくものがあります。

しかし、具体的に、別居が何年になったらどの程度軽減されるのか、ということを示した基準はありません。

婚姻費用の金額は、当事者間で折り合いがつかなければ調停を申し立て、調停でも双方の協議がまとまらなければ裁判所が審判で金額を決定する、という流れになるのですが、最終的には裁判所の判断によって金額が決められることになります。

別居の原因も重視されている

婚姻関係が破綻していると認められる場合は、その原因がどちらにあったか?ということも重要視されていて、妻に全面的な責任がある場合には、妻の分の婚姻費用は請求できません。

その場合でも、子どもがいれば子どもの分の婚姻費用(つまり、養育費相当額)を受け取ることは可能です。 妻に全面的な責任がある場合とは、例えば、妻が不貞行為を行い、家を飛び出した場合などです。

ただし、破綻の直接的な原因のほかに、破綻に至る経緯や、関係を修復するために努力したかどうか、双方の経済能力など、さまざまな事情が考慮されますので、一見、妻に全面的な責任があるようにみえても、一定の婚姻費用分担が認められることもあります。

成人の子がいる場合

婚姻費用にカウントされるのは、自立した生活を送ることができない子どものみなので、成人に達した場合は、原則としてその子の婚姻費用を請求することはできません。

しかし、現実には、成人していても、病気や障害、あるいは就学などの理由で生活能力がないことがあります。 例えば、大学生の場合、親に経済力があり、大学進学を承諾している場合には、成人であってもその子の分を含めた婚姻費用を請求できると考えられています。

ただし、成人である以上、未成年者と同じ程度の金額になるわけではなく、アルバイト収入相当額を差し引くなどの修正が加えられます。

当事務所では、女性弁護士が離婚にまつわるさまざまなご相談をお受けしております。

ネットからのご相談も可能ですので、どうぞご利用ください。

別居中の夫が生活費を払ってくれない時

その他/法律基礎知識/離婚について

離婚を前提に別居している場合、収入の少ない方(妻であることが多い)から収入の多い方(夫であることが多い)に対する生活費の請求ができます。

生活費の請求のことを、法律的には「婚姻費用分担請求」と呼んでいます。

もちろん、離婚を前提とする別居に限らず、婚姻中であれば婚姻費用分担請求は可能です。

婚姻費用についても、裁判所が公表する「算定表」に基づいて決められるケースがほとんどです。

算定表の見方については、養育費と同じです。

なお、以下では、説明を分かりやすくするために、収入の少ない妻から収入の多い夫に対して婚姻費用を請求する場合を前提とします。

婚姻費用の基本的な考え方は下記のとおりです。

夫婦の基礎収入をもとに、妻が必要とする婚姻費用を算定し、そこから妻の基礎収入を差し引いて夫の負担分を出します。

 

計算方法

① まず、夫と妻双方の「基礎収入」を算出します。

基礎収入については、養育費の算定に関連して説明していますので、こちらをご参照ください。

② 夫の基礎収入と妻の基礎収入を合計します。

これを「世帯収入」といいます。

③ 「世帯収入」を「生活費の指数」で按分して、妻の婚姻費用を弾き出します。

「生活費の指数」についても、養育費の算定で説明しているのと同じです。

例  夫の基礎収入 300万円、  妻の基礎収入 100万円

妻が10歳の子と同居していて、夫に婚姻費用分担を求める場合

300万円+100万円=400万円

400万円×100+55/100+100+55=243万1373円… 妻の世帯が必要とする婚姻費用

④ ③で弾き出した「妻の世帯が必要とする婚姻費用」から、妻の基礎収入を差し引きます。   これが、夫に請求できる婚姻費用の額です。

③の例でいうと、

243万1373円-100万円=143万1373円(年額)

これが、夫が負担すべき婚姻費用となります。

以上の計算を簡略化したものが、婚姻費用算定表です。

 

婚姻費用算定表では、夫婦の収入がクロスする箇所をみると、婚姻費用の目安が分かるようになっています。
当事務所では、婚姻費用請求に関するご相談をお受けしております。

お気軽にご相談ください。